理事長あいさつ
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プロフィール
小針 一浩
一般社団法人 インタナティブ・スクール
協会 会長
湘南ホクレア学園 理事長(元起業家 / 旅走家 / 主夫)
27歳のときにビジネスコンサルティング会社を起業。その後、システム開発会社、ブランドコンサルティング会社を起業し、大企業から中小ベンチャーまで幅広い顧客にサービスを提供。2016年に息子が大病を患ったことがきっかけで、全ての仕事を辞めて湘南に移住、主夫となる。趣味は走りながら旅することで、サハラ砂漠を250km、アマゾンジャングルを270km、南極では人類初のトライアスロンを完走。目標は月面マラソンを開催して、自らも走ること。多くの人の応援を受けながら我が子の闘病生活を終えられたことに感謝し、残りの人生を次世代への恩送りの時間にしたいと決意。子どもたちの未来のために人生を送ると決める。
誰も見たことのない未来を
生き抜く子どもたち自分のお気に入りの場所で〈スマートグラス※1〉をかけ、オーガニックコーヒーを飲みながら「世界の人気教授リスト」の中から講義を受けたい教授を選択する。同時通訳の言語から「Japanese」を選び、教授との質疑応答をインタラテティブに行いながら講義に参加。
今の小学生が大学生になる頃、大学の講義は〈MR(複合現実)※2〉を使った、このようなスタイルになっているのではないかと思っています。
そして、彼らが35歳の働きざかりとなる2050年には、世界はAR(拡張現実)で覆われ、車や飛行機は自動運転に、ロボット掃除機は床だけでなく、壁・天井・トイレの掃除、衣類の洗濯・乾燥・畳みまで行い、さらにドローンで運ばれてきた宅配物の受け取りもしてくれる〈家事ロボット〉にアップグレードしているでしょう。その頃、プログラミングは、AI(人工知能)に任せる時代になっているかも。
このように「AI x AR x ロボティクス」の技術が発展し、結果として雇用減少が起きるのはほぼ間違いありません。さらに国内では「超少子高齢化社会と人口減少」、世界的には「地球温暖化と環境問題」といった課題が山積みで、これらはまとめて〈2050年問題〉と呼ばれています。また、高確率で「3つの大地震」が起きるとも予測されています。
これだけを見ると不安にしかなりません。
ただ実際には、「労働人口の50%程度がAIやロボットに代替することができる」と言われているため、少子高齢化と人口減少による労働力不足を心配していた日本にとっては、これらの代替労働力として期待しても良いものだと考えることもできます。
つまり、「人口減少によって働ける人が不足するようになったので、人間がやっていた多くの労働はAIやロボットに代わってもらい、私たち人間は、自分のやりたい仕事を選び、自分らしいライフスタイルを過ごしながら生きていきましょう」と、楽観的に捉えることもできるということです
未来を前者のように不安に感じるか、後者のように希望に感じるかは、個人個人の世界観によって異なるでしょう。
ただ間違いないのは、自然環境は変化し、AIやロボットは今よりもっと身近になること。そして、今まで誰も経験したことのない時代を、子どもたちは生きていかなくてはいけないということです。
価値観を変えたジャングルでの出会い
私自身のことを話しましょう。
大自然の中を走るのが好きで、趣味のひとつにトレイルランニングがあります。この10年でその趣味がエスカレートしていき、砂漠を250km走る〈サハラ砂漠マラソン〉や人類史上初めての〈南極トライアスロン〉などのレースにチャレンジしてきました。そして44歳のとき、ブラジルのアマゾン川流域270kmを7日間で走る〈アマゾン・ジャングルマラソン〉という大会に出場しました。レース5日目、ジャングルを110km進まなければゴールに辿り着けない日のことです。360度景色が同じ密林の中を、木にぶら下がった紐を頼りに走るのですが、いつの間にかコースから外れ、自分の位置を把握できなくなっていました。すぐにその場を振り返り、来たであろう方角に向かって走ってはみるものの、コースには戻れません。
気温43℃、湿度99%の高温多湿の熱帯雨林。少しずつ口を濡らす程度で飲んでいた1500mlの水を飲み干し、ボトルは空に。野生動物たちの鳴き声がこだまするジャングルの中でたったひとり。死を意識した瞬間でした。
大病と闘う息子に「どんな困難に出合っても、絶対に諦めずにゴールへと向かう父の姿を見せたい」と、気合い十分で臨んだレースだったので、喉が渇いてフラフラになりながらも、精神面だけは折れることなく彷徨い歩き続けました。奇跡的にもジャングルの中に建つ小屋を発見し、水を分けていただき、回復することができました。その後、幸運にもコース目印を見つけ、無事にレースへと復帰できたのです。
そんな体験をした数時間後のことです。タンクトップに短パン・ビーサン姿で、背中にサバイバルナイフを持ってジャングルを歩く少年と出会いました。私はしばらくその少年と一緒に行動することになり、カタコトの英語とボディランゲージでコミュニケーションしました。
彼は「どの木から飲み水が得られるか」「どの野草や実が食べられ、どの虫がおいしいのか」「猛毒を持つクモやヘビの見分け方」「ハチや蚊に刺されたときに使える薬草はどれか」「動物を仕留めるとき、どんな罠をつくり、どこに仕掛けるのか。そしてどのように捌(さば)くのか」を知っていました。そしてそれらは「このナイフひとつあればできる」と話します。
ブラジルのジャングル奥地に住む先住民族の子どもが英語を学んでいることに驚くとともに、10代半ばのこの少年のたくましさに憧れを抱いた瞬間でもありました。また同時に「自分は、日本という守られた環境から飛び出してしまえば、生きることすら危うい人間なのだ」と思い知らされた出来事でもあったのです。
アウトドアスキルは生き抜くための
ベーシックスキル私たちは文明社会を生きています。〈マズローの欲求5段階説〉の1段目〈生理的欲求〉と2段目〈安全欲求〉は、日本人の多くがクリアしているでしょう。ただ、それは自分のスキルによるものではなく、国のセーフティネットのおかげで守られているのだとしたら? その機能が一時的でも失われたとき、「私たちは果たして生き残れるのだろうか?」と考えさせられました。
キャンプを除けば、アウトドアスキルが必要なのは、災害時か遭難時くらい。キャンプを頻繁に行う人でもなければ、アウトドアスキルの必要性をあまり感じないでしょうし、「自らが身につけておかなくては」と考える人は少数派だと思います。
しかし、気候変動で天災は増えるばかり。30年以内に大地震が3つほど起きる可能性が高いとも言われています。もしかしたら一生に一度の出来事かもしれません。でも、その一生に一度の危機が目の前で起きたとき、確かなスキルで自分や家族、そして周囲の人たちを助けることができれば。〈アウトドアスキル〉は十分に身につける価値のあるものだと考え、未来を生き抜くためのコアスキルに加えることとしました。
優しい子である前に、頭の良い子である前に、どんな環境でも生き抜ける子に育って欲しい。
そのような想いを抱きながら、教室から山や海に飛び出して、大いに遊び、大いに学び、世界中のどんな環境でも生き抜く力を身につけられる学校をつくりたい。そして、未来がどんなであったとしても、生き抜く力を持った子を育てていくことが、私たちの使命だと考えています。